CIID Design for Behavior and Impact

Ats
16 min readAug 1, 2020

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ソフトウェアエンジニアが CIID の IDP コース(22週目)に参加して学んだことをゆるりと共有します。今週(7/27~7/31)は「行動」のデザインの授業でした。認知科学と組み合わせて論理的に説明してくれたので、個人的には納得感が高く、満足感も高い授業でした。

Photo by mauro mora on Unsplash

21週目の記事もあるので良かったら読んでみてください。

Day 96: Behavioral Design introduction

この日は Behavior Design について説明を受けました。そして、今週の課題が発表されました。今週の課題は「インターネット上で起こるソーシャルムーブメントをもっと実際にアクションにどうつなげるか」というものでした。今回は個人プロジェクトなので、僕は自分が本が好きというのもあって、「若者の読書離れ」をテーマにしました。この章では、Behavior Design について共有しようと思います。

Change the environment

まず、人間の言動というのは、その人が置かれているコンテキストや周りの環境次第でいかように変わると説明を受けました。具体的には、ある状況では、A だと言っていたことが、別の状況では B と言う非一貫性が人間にはあるということです。そして、この「コンテキストや環境を変えて、人間の言動をデザインする」とういうのが、Behavior Design だと教えられました。また、授業中に人間が環境から言動を覆す実験の動画を見せてもらいました。下記に動画を載せておきます。この動画から、人間の言動の非一貫性が分かると思います。

また、Behavior Design とは Inside-Out では Outside-In であると強調されました。簡単に違いを説明すると、Behavior Design は人間の言動を直接変えるために使いません。Behavior Design とは、人間のコンテキストや環境を変えて、間接的に人間の言動に影響を与えるということです。そして、Behavior Design の面白い例を教えてもらいました。それは、Google の食堂で行われたデザインです。Google の食堂は Google の社員なら誰でも無料で利用することができます。そして、たとえ Google 社員であっても自己節制には限度があるようで(そもそも人間は自己を律せいない動物らしいです)、食べすぎてしまう社員が出てきたらしいです。そこで、Google の Behavior Design チームは、社員の食べ過ぎを抑える方法を考案しました。それは、食堂のお皿を小さくするということでした。

このように、単純なことですが「お皿」という食事の際の環境を変えることによって、人間の「食べすぎてしまう」という言動をデザインしています。これがまさに Outside-In であり、Behavior Design だと説明を受けました。

最後にこの日の僕のアウトプットを載せておきます。今週は1日1日のアウトプットがしっかり準備されているので見て、Behavioral Design の参考にしてもらえればと思います。

Day 97: Discover stage

Photo by Paul Skorupskas on Unsplash

この日は、前日に決めた課題をカスタマージャーニーに落とし込んで、そこから仮説を導出しました。前職でも何度かカスタマージャーニーを作ったことありましたが、今回は認知科学を利用してかなり深くカスタマージャーニーを作れたと思います。この章では、そのやり方を共有しようと思います。

Be specific

まずは、「Outcome(結果)」と「Behavior(行動)」の違いを説明されました。「Outcome」とは、文字通り「Behavior」の結果です。そして、「Behavior 」は今回のデザイン対象です。この「Outcome」と「Behavior」を混同する人が多いので注意が必要だと説明されました。簡単な具体例を出すと、「健康になる」というのは「Outcome」で、「野菜中心の昼食をとる」というのは「Behavior 」です。まずは、自分たちのデザイン対象を間違えないように注意されました。それを踏まえて、まずは下記のフレームワークに沿って、自分たちが解決しようとしてる課題とユーザーと行動を明確にしました。

そして、前日に説明されたように、人間はコンテキストによって行動を変える動物です。なので、この際にコンテキストをより具体的にすることが求められました。この時に、「いつ?」や「どこで?」などの条件を足すことで、デザインする行動を詳細にしていきます。僕の場合は、「若者の読書離れ」に「 Stay Home & Work From Home」のコンテキストを追加しています。そして、更にデザインしようとしてる行動が計測もしくは観察可能になるレベルまで、詳細にするように注意を受けました。僕の場合は「就業後に本を読む」で、観察可能にしています。例えば、「より理解する」や「意識するようになる」は人間の認識の問題なので計測も観察もは可能です。そして、下記のフレームワークを使って、「Behavior 」を「Action(行動)」と「Decision (決断)」に分けていきます。

Step 1, Step 2 は as-is と to-be のカスタマージャーニーを作るのと一緒だと思います。ただ、授業中に何度も注意されたのは、端的かつ詳細に Action と Decision に分けることです。自分の決めた課題とユーザーと行動を意識しながら、なるべく具体的になるようにカスタマージャーニーを作ります。Step 3 では、as-is で自分がデザインしようとしてる行動の障壁になっている箇所に印をつけていきます。そして、Step 4 で障壁がなぜ起こるのかの仮説を書き出します。過去にカスタマージャーニーを何度か作りましたが、このように一つ一つの Action や Decision の単位で仮説を出したことはなかったです。更に、この仮説を認知科学のバイアスと組み合わせて行きます。生徒は予め講師が選別してくれた認知科学バイアスのリストを渡されていました。これを使って、先程書き出した仮説は、どのバイアスから生まれているのかを検討します。僕たちは講師が選別してくれたリストを使っていますが、認知科学のバイアスなら何でも良いと思います。下記に適当に見つけた認知科学のバイアスの一覧を載せておきます。

僕の場合は、「携帯を手に取る」「ベッド/ソファに行く」「Youtube/Netflix/Instagram を見る」を障壁として、「ユーザーが本を読まないで、なぜそれらの Action をとるのか?」というのを認知科学のバイアスに当てはめながら検討しました。また、1つの Action と Decision に対して複数のバイアスが働くのは普通のことらしいです。なので、僕は「Confirmation Bias」「Availability Bias」「Present Bias」「Status Quo Bias」「Intention-Action Gap」を抜き出しました。この際に、意識するのは「ユーザーの行動が理想の方向へ向かわない根本的な理由を探る」ということです。それらを、認知科学のバイアスに当てはめながら、とにかく詳細に特定の原因を探っています。今までは、なんとなく「ユーザーが怠惰だから」で済ませていましたが、講師からその理由は強く否定されました。「人間に怠惰という Action も Decision もない」と語気を強くして言われました。このように新たな思考の手段でカスタマージャーニーを作って理解するのは面白かったです。

この日は、バイアスを導出して終了しました。この段階のアウトプットを下記に載せておきます。

Day 98: Concept stage

Photo by Alex Radelich on Unsplash

この日は、前日に考えた仮説と認知科学のバイアスを使ってアイディアを導出する日でした。基本的にアイディアを出す方法は、今までと同じでブレインストーミングですが、行動経済学の観点を取り入れて行いました。この章では、その行動経済学の観点を紹介したいと思います。

Close the gap between decision and action

まず、前日の仮説のブラッシュアップから始めました。理想的な仮説は、ユーザーの表面的な行動の仮説ではなくて、ユーザーの「考え」や「感じ方」、「想像」が入るような仮説になるようにブラッシュアップします。仮説にユーザーの「考え」や「感じ方」、「想像」が入っていると、とても認知科学のバイアスと相性が良くなると思いました。正直、前日の表面的な行動の仮説段階で、認知科学のバイアスを当てはめても無理矢理感がしてました。しかし、「考え」や「感じ方」、「想像」が入っていると、「ユーザーの認知」が理解しやすくなるので、認知科学のバイアスが選びやすくなります。僕はレビューで、「5回 Why を繰り返せ」と言われたので、思考停止で Why? で深堀りすれば良いと思います。

次に、仮説から to-be の行動へ向かわせるために影響力の大きい仮説を選びました。そして、それに対してそれぞれ HMW(How might we)の problem statement を設定しました。僕が選んだ仮説と HMW を下記に示します。

この HMW を基にして、グループになってブレインストーミングしました。その際に教わったことは、「Decision と Action の間隔」のことでした。行動経済学では、Decision とAction の間隔が大きれば大きいほど、目的の行動を達成できる確率が低くなります。この「間隔」とは、物理的な距離や時間的な間隔を指します。例えば、「ハワイに行きたい」と思っても、「旅行代理店に行く必要がある」となると、物理的な間隔とそこに行くまでの時間が大きくて達成できる可能性が下がります。つまり、下記図のように Decision と Action の間隔を小さくするようなアイディアを意識するように言われました。

この「Decision と Action の間隔を小さくする」ということは、東京で働いていた時からなんとなく感覚では理解していたと思います。ただ、改めて説明されて、それを認知科学のバイアスと具体的なコンテキストに沿ってアイディア出しをすると以前より具体的なアイディアが出せていると思います。東京で働いていた時は、何が課題でどんな仮説があるのかを整理しないまま、とにかく「Decision と Action の間隔を小さくする」ことを考えていたように思います。今回は、認知科学と行動経済学を組み合わせながら、一歩ずつアイディアを具体的にしているようで、個人的には納得感が高いブレインストーミングになったと思っています。

最後にこの日のアウトプットを載せておきます。僕は、「本のトレーラーを音声再生してくれる枕/クッションのブックカバー」を今回のコンセプトにしました。本に興味を持ったらすぐに本を読めるように意識して、ベッドやソファーでゴロゴロしているユーザーが夕飯前に読書の時間で楽しくリラックスできるようにと考えています。

Day 99: Prototype stage

Photo by Randy Fath on Unsplash

この日は、前日に考えたアイディアをプロトタイプして、テストする日でした。講師からは格好良いプロトタイプは必要ないと言われていましたが、せっかくなので Arduino を使ってクッションに仕込めるセンサーを作って、トレーラーを流したり止めたりできるようにしました。この章では、Behavioral Design で気をつけるべき観点を共有しようと思います。

Behavioral Design Strategies

まず、プロトタイプを作る前に、自分たちのプロトタイプを使って何を達成するのかを下記のフレームワークを使って明確にしました。

ここで重要なのは、自分たちのプロトタイプでユーザーの行動に影響を及ぼすことです。そして、その行動が計測可能または観察が可能なことです。僕は、ユーザーが実際に本を読み出す数と、音声トレーラーを無視して Youtube や SNS を読み続ける数を比較する KPI としています。ただ、今回、そんなに Hi-Fi なプロトタイプができなかった上に半日しか試す時間がなかったので、この KPI はそんなに活躍しませんでした。本来は、もっと時間を費やして、僕のプロトタイプでどのくらい行動に影響を及ぼしたのか定量的に調査する必要があるのだろうと思います。

その後に、前日のストーリーボードを使って、近くに住んでいるクラスメートの家に行って、ユーザーテストをしました。そのフィードバックは、音声トレーラーを無視して、自分の作業を続けてしまうというものでした。そこで、今回の仮説に立ち戻って、認知科学のバイアスを調べ直しました。そもそも、僕は今回の仮説は Present Bias に基づいて作っていました。Present Bias とは簡単に説明すると「長期的な目線でメリットを考えられず、現在の楽しさにメリットの重きを置く」バイアスです。これを講師に質問すると、「もっと自分が起こり得るワクワクを増幅させた方が良い」「自然と行動を促す強制力があった方が良い」の2点のフィードバックをもらいました。

このフィードバックを基に、「なんの本かはユーザーに分からない状態でユーザーはトレーラーを聞く」と言う風にコンテキスを修正して、本に対するワクワク感を増すようにしました。更に、「トレーラーを止めるためには本を取り出す」と言う風に本を読む動作への強制力を増すようにしました。今回は、なんとなくな改善をして、翌日の発表に向けてプロトタイプを作りました。しかし、本来は認知科学のバイアスをもっと調べて、どういう対応するのかを吟味するのが良いのだろうなと思いました。また、そこが Behavioral Design の大切なところなのかなと思います。

最後にこの日作ったプロトタイプと、簡単なテストの様子のビデオを載せておきます。

Day 100: Experiment stage

Photo by Charles Deluvio on Unsplash

この日は、今までとは違って午前中は普通に授業をして、午後に今までのプロセスを発表するというスケジュールでした。せっかくなので、授業で教わった計測方法について少し共有しようと思います。

Measure your intervention

CIID の授業では初めて、自分のデザインの効果計測のやり方を教えてもらいました。Behavioral Design では、かなり統計的に効果計測を行っていて、僕はとても面白いと思っていました。残念ながら今回の授業では実施はできませんでしたが RCT という方法を教わりました。詳しい説明は下記のリンクに譲ります。

簡単に説明すると、十分量のデータを基に対照実験を行って、違いの差を統計的に有意かどうか判定する方法です。主に医療分野で用いられていて、新薬の効果測定などに使われているそうです。統計的に有意な効果測定というと、AB テストが思い浮かぶと思います。しかし、AB テストは小さい変更に対する効果測定の際に有効と教わりました。今回のような行動のデザインの場合、複合要素が多いのでそれを考慮できる方法を選択する必要があると教わりました。

今回は実施はできませんでしたが、自分が行ったデザインに対して、効果計測までやるのはとても面白く学びたいと思っていたことでした。なので、少しの時間でも説明を聞けたのは目から鱗な時間でした。まだ、自分の中でも消化しきれていませんが、アプリ内に留まらない長期的な体験をデザインする場合は Behavioral Design の観点が重要になるんだろうなと感じています。その際に、今回のフレームワークを使って、「ユーザー/コンテキスの特定」「アウトカムの特定」「仮説の特定」「認知科学のバイアスの特定」「効果計測」の一連を試したいと思いました。

少ないですが、最後に今週の発表資料を載せておきます。

23週目の記事もあるので良かったら読んでみてください。

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