ソフトウェアエンジニアが CIID の IDP コース(3週目)に参加して学んだことをゆるりと共有します。今週(3/9~3/13)は電気回路を中心とした電子装置の基本を学ぶ週でした。今週は勉強していたというより遊んでたに近いので、感想がメインです。そして、エモいです。
I wrote this article in English as well.
2週目の記事もあるので良かったら読んでみてください。
Day 11: Play with electronics!
初日の授業はとても予想外でした!大学の頃に機械工学を専攻していた僕は、久々にハンダコテや電気回路を組み上げるのをすごい楽しみにしていました。更に IoT みたいなこともできると考えると、基本の授業だとしても胸は高鳴っていました。しかし、授業が始まるやいなやラボを出て、ジャングルの中へ歩いて行きました。そして、授業が始まりました。
複雑な世の中を実際に見る
この授業の一番最初に「デザイナーとは、物事をよりシンプルにするのではなく、複雑な世の中をより見えやすくする存在」と教えてくれました。この考え方は、僕にとってはとても面白い考え方でした。
Google や Apple などのデザインガイドラインを読むと、やたら「シンプル」という単語を目にしていたと思います。もしくは、僕が彼らのデザインをそいうものだと思いこんでいたのかもしれません。このデザインガイドラインを読んで、僕は日本でアプリやウェブサイトをデザインする時に、とにかくシンプルにするように考えていました。この考え方は、そんなに間違っていないと思います。ただ、少しアプローチが違っているなと思います。先生は「複雑な世の中をちゃんと認識する」ことが大前提にあり、そこから「どう分かりやすくしてあげるか?」という問いを解決することがデザインだと考えています。僕が日本にいた時にやっていたデザインは「こうした方がシンプルだ!」という思い込みでだったと思います。
重要なのは、無用にシンプルにするのではなく、なぜ複雑なのかをちゃんと理解することなのだなと考えさせられました。そして、複雑さを体感するのに、自然の中というのは想像以上に面白い場所だったなと1週間を通して感じることが出来ました。
楽しんだもの勝ち
エレクトロニクスをやるのに重要なのは「Be happy, curious and energetic」だと教わりました。そして、その後に先生がニヤニヤしながら、この日の課題を出して来ました。それは「夜にジャングルの中で蛍のメスを誘惑できたら勝ち」というお題でした。課題っぽく要約すると「夜に川辺に行って、蛍を呼び込むための回路を LED を使って組み立てる」ってことです。ただ、「蛍のメスを誘惑する」って言葉にクラスメイトのほとんどが笑い出しました。多分、こんな先生は日本だけじゃなくて世界中を探しても稀有な存在だと思います。とにかく、僕たちを楽しくさせたり、好奇心をくすぐるような言い回しで課題を出して来ます。
そのおかげで、電子回路の他にも色々調べます。「蛍のメスは何色の光によってくるんだ?」、「蛍のオスはどの頻度で光るんだ?」、「川辺で光らすのに最適な大きさってどのくらい?」などなど。僕は持ち運び重視で下記の LED 回路を作りました。
それで夕食の後に実際に川辺に行って、「蛍の誘惑大会」をやりました。後から、写真を見返すとアホみたいなことをやっていたと思います。ただ、みんな自分で調べて作った回路を使って、蛍が集まって来るのを楽しんでいました。正直こんな感じでエレクトロニクスと向き合ったことはなく、自然とエレクトロニクスって遠い存在だと感じていました。しかし、お題を少し変えてあげるだけで、電子回路を組み立てるのがこんなに楽しくなるとは思いませんでした。そして、電子回路を組み立てるのにこんなに一生懸命になれると思いませんでした。この先生からはとにかく楽しむことがものづくりで一番重要なことなんだと学びました。
Day 12: Electronic components
この日は、前日より多くの電子部品を渡されて、更に作るという日でした。そして、電子回路の書き方も習って実際に電子回路を書きながら回路を作るということをしました。その際に、先生から言われて印象的だった会話を残しておこうと思います。
計算するのがエンジニアリングじゃない
僕が理系卒だからか分かりませんが、この言葉はすごい印象的でした。大学生の頃、授業や研究室にいた時間のほとんどをコンピューターや関数電卓を使った計算に費やしていたと思います。そんな4年間を過ごして機械工学の学位を取りました。
しかし、今週の先生はとにかく回路を組み立てること促して来ます。回路図の書き方を習うより前にまず組み立てることを進めてきます。そうすると当然うまく行かないことが出てきます。僕たちの場合は、スピーカーと電池を繋げたのに音がでないという問題が起こりました。すると自然と僕たちはスピーカーの仕組みを調べ出していました。そして、「スピーカーは電流の ON/OFF が引き起こす磁場によって空気を振動させて音を出している」と分かりました。なので、僕たちのチームは音を出すために高速に電流の ON/OFF を行う回路をモーターと磁石センサーを組み合わせて作ることにしました。そしたら、ただブーブーなるだけですがスピーカーから音を出すことが出来ました。下記の写真が僕たちが作った回路です。
実は上記の写真の回路が完成するまでに、LED を1つ壊してます。その際に、「なんで壊れたんだろう?」とチームメイトと考えてそこで実際に回路図を書いて電流の計算を行いました。原因は大きすぎる電流の供給でした。なので、抵抗を足すことで正常な動作をすることが実現できました。
この日は、不具合や失敗を繰り返すことで多くのことを学べたと思います。大学で勉強した方法だと紙に回路を書いて終わっていました。その回路の中ではスピーカーの原理や LED の注意点は気づけなかったと思います。しかも今回は自分が作りたい回路があるので、回路を作る目的がはっきりしていて、すごい楽しかっです。更に、大学であまり感じていなかったけれど、小さいことですが「エンジニアリングしてるなぁ」と感じていました。
ラボから出ろ
この日、先生は各チームにソーラーパネルを配って、「外で回路を作る」というお題をだして来ました。更に、先生は「ラボで完璧に出来た製品はだいたい実際の利用環境では動かない」と教えてくれました。それを体現するようなことを直ぐに体験出来ました。
最初、僕たちのチームは、ソーラーパネルの最大電圧を計算していました。そして、その電圧でモーターが動くように抵抗の計算をしていました。しかし、実際の環境はずっと晴れているわけでなくて、曇ったりもして電圧が足りなくなること頻発しました。少し考えれば気づくことができることだと思います。ただ、計算してる本人たちはそんなこと頭の中には全然ありませんでした。むしろ出来た回路を外に持ち出して、喜んでいました。これがまさに先生が言いたかったことなのかと思いました。確かに、ラボ(室内)の中では、どうしても理想環境で考えがちだなと思います。だた、実際の利用環境で理想的な状態は少ないんだろうなと思います。
この日の最後に先生が話してくれた先生の失敗談も、共有しようと思います。先生は昔に蟻の行動パターンを研究していたらしく、蟻の行動を自動で監視するプログラムを作っていたそうです。そして、ラボの中では完全に動作したそのプログラムは、自然の中では全く動きませんでした。なぜなら、ラボでは二次元の行動監視しかしていなかったけれど、自然の中では三次元の監視がないと全く意味をなさないということでした。
こんなこと当然だと思いますが、やってる本人たちはすっかり忘れて目の前の作業に熱中しています。なので、実際に使う環境でものづくりできるのが最強なんだなと体感することが出来ました。「ラボ(理想環境)から出ろ」という言葉を僕の肝に銘じようと思いました。
Day 13: More nature
この日も早速ラボを追い出されました。この日のお題は「自然の物を使って、自然を測るセンサーを作る」というお題でした。僕たちのチームは、風が吹いたら竹をカタカタと叩くセンサーを作りました。概略は、風に揺られた磁石が近づいたらマグネットセンサーが起動して、回路に繋がれているモーターが回りだします。そして、モーターにくくりつけられた木の棒が竹をカタカタと叩くという仕組みです。レベルでいうと小学生の図工だと思います。それでも、心に残ったことをまとめてみました。
いろいろあるからこそ決断が求められる
自然の中は複雑だからこそ、選択肢がたくさんあります。自然の物を使うとなってもいろんな植物や昆虫がいて、どれを使ってセンサーを作るのかはとても迷います。また、どれを使うか決めた後でも、どこのデータを集めるかやどうやってデータを集めるかなどのやり方は更にたくさんあります。そんな中でも自分たちで決めて前に進むことが求めらます。この日は正しいかどうか分からないけど、まずは形にしてみるというのを習った通りに実践しました。
そんな心境を授業の後に先生に話すと、先生は「いろいろあるからこそ決断が求められる」と話してくれました。そして、「今までの科学者は自分たちで対象や実験方法を決断して、技術を前進させてきた。」と更にスケールを大きくして話してくれました。
正直そこまでスケールの大きな話になったことに驚きましたが、話せたことは良かったなと思います。この先生は科学者だけど、考え方はほとんどデザイナーと同じなんだろうと思いました。科学者も複雑な世界を見ていて、そこから何かを導き出そうとしている点では、CIID が目指しているデザイナー像と同様なんだろうなと思います。そして、この先生は「実際に何かを作って試す」という点で、たくさん決断をしているんだろうなと思います。そして、これは1週目で教わった「前進している間はリスクを最小化出来ている」という言葉と通ずることなんだろうなと思います。
何を作るかは自分で決める。どんな環境を選択するかは自分で決める。あとは、試す。この日は、先生と話して「決める」ことと「試す」ことの重要性を改めて教わりました。そして、自然の中(実世界)は複雑であり、かつ選択肢にあふれているんだろうなと体感した日でした。(学びが実践的でなくて申し訳ないです…)
Day 14: More, more and more nature
この日はとうとうラボにいなくて良いと言われました。回路を組み立てるために1時間程度ラボにいましたが、ほとんどジャングルの中を歩き回っていました。この日のお題は「自然の疑問を電子回路を使って観察する」というお題でした。
実験はほとんどうまくいかない
僕たちはジャングルを歩き回って、竹の抵抗が常に変化していることを見つけました。とても面白いと思った僕たちは、竹の抵抗が流動的なのを LED を使って可視化しようとしました。このアイディアが思いついてた時は、とても面白いと思ったし、良い発表ができそうだなと思って安心してました。しかし、実際に回路を組み上げてみると電池の電圧が低すぎて、LED を発光させるのに十分な電流を確保できませんでした。この時、直ぐにプロトタイプを作って実験できたのが良かったと感じています。。先生やこれまでの授業でとにかく試すことを言われていたので、直ぐ作ってダメだと分かったのは、この後の計画を考え直すのにとても有用でした。僕たちのチームは、急いで B プランに切り替えてデータの収集をすることになりました。
しかし、この日の授業後に納得いかない僕は一人でラボに行って、十分量の電流を確保するために電池を並列した回路を組み上げて試したり、より低い電流で発行する LED と組み替えたりとやりました。そして、全部うまくいきませんでした。理論上では出来ているのに、出来ないことに少し躍起になっていたと思います。(諦めが悪いのは僕の悪いクセです)そして、今思うと最初のアイディアが面白そうで固執していたんだと思います。ただ、前述の通り計算上でうまくいくことが、理想通りに行かないことを身を以て体感しました。そして、1つのアイディアに固執せずに、失敗を受け入れて柔軟に計画変更したチームメイトに感謝しかないなと思いました。
小さな疑問を広げる
最初 B プランを思いついた時は、竹の案と比較してあんまり面白いと思えませんでした。ただ、実験を繰り返したら面白い発見も得られました。見た目では枯れて見える植物も、電気を通すと本当に枯れているかどうか判断ができることを見つけました。それは、本当にたまたま見つけたものでした。いろんな植物の伝導性を調べていたら、同じ植物なのに伝導性がないものを見つけて、なぜなのか考えていたらそれは枯れているからということに気づきました。
最初に「同じ植物なのに伝導性なのと非伝導性なのがある」という疑問を見つけてから、最終的に、(正しい結論か分かりませんが)「植物が枯れているから」ということになんとかたどり着くことが出来ました。しかし、最初の段階で先生が「最高のインスピレーションだ!」と言ってくれたことが、とても印象深かったです。小さな疑問を「たまたま」と見過ごすのか、「面白いね!」と言えるかで自分の得られる可能性を変えてくれるような気がしました。また、大学時代よりやっていることのレベルは低いし、ある機材も充実してる訳ではないと思います。ただ、小さな仮説を出発点にして、計算して、形にして、試すのは楽しいなと体感できました。先生が教えてくれた「ラボから出る」というのは、こういうことを教えようとしてくれたのかもしれません。(勝手にテンション上がってるだけかもしれません)
Day 15: Presentation
この日は今週のプロジェクトの発表の日でした。僕たちは葉っぱの伝導性を調べるという発表をしました。プロジェクトというよりは小学生の理科の授業の発表みたいになりました。その発表資料を下記に載せておきます。(動画は権限の関係で見せられませんでした…すみません…)
今週は電子回路のことより、その場ですぐプロトタイプすることの重要性を学んだような気がしてます。プロトタイプというプロトタイプは作ってないですが、その環境の中で直ぐに何かを作って、データ取とる。この繰り返しが素早い改善になっていくんだなと体感しました。
そして、何よりも今週の先生がこの授業をとても興味深いものにしてくれた思います。この先生を自然オタクでロボティクス専攻の科学者兼エンジニアです。下記に、その方のウェブサイトを示します。
この先生はとにかく自然に飛び込みます。生徒といる時間より、ジャングルにいる時間の方が長いと思います。電子回路に必要な道具を自作して、ジャングルの中でも直ぐに作業ができるようにしています。この先生は口を開けば「部屋の中にいても何も分からないよ!」「自然の中にインスピレーションはたくさん転がってるよ!」と言います。彼の考え方はまさに CIID が目指している Life Center Design の実践者だなと思いました。そして、デザイナーと科学者のマインドセットは同じなんだなと教えてくれました。「この人から考え方を学べた」ということがこの週の最大の学びであり、僕の今後の考え方に大きく影響を与えたと思います。
末筆ながら、エレクトロニクスに関して有用だと思った動画のリンクを残しておきます。
4週目の記事もあるので良かったら読んでみてください。